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サザエさんに見る不思議な「転調」 [楽理]

 扨て今回は長寿TVアニメ番組「サザエさん」について語る事に。その不思議な「転調」とやらは、TVアニメ用のオープニング・テーマとして用いられている独得の編集に依って「仕方なく」処理されている物であるという事をあらかじめ述べておかなければならず、制作サイドからすれば転調という意図は全く無い筈でありましょう。孰れにしても苦肉の策であった事は疑いの無い所であり、そうした不思議な転調という側面を語る事にします。


 2013年暮れに発売されたサザエさんのサントラCD『サザエさん音楽大全』の収録曲宇野ゆう子さんが唄う1曲目「サザエさん」こそがTVアニメ版でのオープニング曲というが直ぐに判ります。とはいえTV用の物は尺を短くしておりますし、更に深く分析してみると両者ともピッチが僅かに違うのであります。この相異こそが今回重要視する最大のポイントなのであります。
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 私は、TVアニメのサザエさんが日曜日ばかりでなく火曜日にも放送されていた事を知る者のひとりでありますが、火曜日の方の曲は日曜日のそれとは違う訳です。そうした、曲がまるっきり違うというのは扨置き今回重要な点はTV用オープニング曲とCD「サザエさん」は夫々ピッチが異なる点をあらためて述べなければならないのですが、以前にも私がサザエさんのCDを語っていた様に、CD版「サザエさん」(ステレオ)は440Hzを基準としたコンサート・ピッチよりも低いというのは継続的に私のブログをお読みになられている方はご存知とは思いますが、TV版(モノラル)の方はCD版よりも更にピッチが低いのであります。先ずはそれら両者がどれ位違うのか!? という所も後述しますが、私はそれら2つのピッチの違いを認識していたものの、少年期の頃から感じていたそれは「サザエさんのオープニングはニ長調」という認識であったのです。

 私の少年期というのは、己が持っていない音楽ほど貪欲に漁っていた物で、殊TVから流れて来る音楽にfirst sightであっても調所属を見抜きモード奏法をするというのが指馴らしも兼ねた日課となっていたので、そこにジャズ/フュージョン系など調所属がコロコロ変わる類の曲に遭遇すると和音を一瞬で読み取る必要があるので、そうした遭遇下でモード奏法を追従する事は楽しくて仕方がありませんでした。己のモード想起が合致していればリアルタイムに流れている未知の曲でも「道を外れる事なく」(=モード・スケールを充てているのでその都度外れる事のない音)演奏する事が醍醐味であった訳です。


 そんな時に「サザエさん」の放映時間が始まると、余りに卑近なサザエさんの曲に合せ様とまで欲求が起らないのですが、そんな時に偶々合わせて弾いてみると、自身のチューニングした楽器よりも遥かに大きいピッチのズレに気付かされる事になります。440Hzを基準とした場合、441、442の場合でもズレは判るのですが、まあ指馴らしの練習程度の間であれば気持ち悪くでも許容範囲な訳です。フレットレスならば自身が都度準じて弾けば良い訳ですから。但しサザエさんに対してはそのズレの大きさは昔から認識してはおりました。

EmanuelBohya.jpg ピッチのズレとやらが大きい曲は他にも同様に、1980年代初頭にエマニエル坊やとして有名な「シティ・コネクション」という曲があり、これが又大ヒットしたのでありますが、お遊び音楽であるにも拘らずバックのギターのカッティングやベースはかなり格好良くて、スペクトラム人脈なんじゃないか!?(※今でもバック・ミュージシャンは不明)と思える様な、渡辺直樹・芳野藤丸を思わせる音なんですね。

 処がこの曲とやらもピッチは「かなり高く」て、ほぼシントニック・コンマに近しい程に高い訳です。この曲に合わせて弾こうとするとホントに気持ち悪かったので、ピッチを落として録音したりして曲を再生していたりしました。こういう機会に折角ですから「シティ・コネクション」のEP盤歌詞部分も載せておきましょうかね。ベイビー♪
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 TV音楽となるとこうしたバリ・ピッチを施す事は録画→ダビングという行程を経なければ編集できませんから、曲としてはあまりにもベタ(卑近)なそれに対して、そこまで労力を費やす程もない訳です。そこから何十年も月日が経過してあらためてCDやTV放映を聴き較べると、嘗て耳にした時よりも違和を覚える訳で、それを発端に今回この様にしてあらためて書く事にした訳であります。


 今一度CD版「サザエさん」のピッチを取上げると434.2Hz。過去のブログ記事にて詳述しておりますが宇野ゆう子さんの歌がそれらより7セント程高い箇所もあります。434.2Hzというピッチは440Hzより「ほぼ」23セント低いのであります。宇野ゆう子さんの7セント高い箇所を局所的に抜萃したとしても相対的には16セントほど低いとも言えますが、アンサンブル全体からピッチを探るのが通例ですので、ほぼピタゴラス・コンマ分ほど低い事になります。ピタゴラスおよびシントニック・コンマはその相対的な差として「高く」なる物ですが、それとほぼ近しい物となり

シントニック・コンマ<22.97セント(※CD版「サザエさん」)<ピタゴラス・コンマ

という事が言えます。


 扨て、TV版の「サザエさんオープニング」というのは前掲のCD版よりも更に低いのです。440Hzから換算すると40セントも低いのです。ほぼ四分音とも言えますが、この場合五分音であります。全音を5分割する音律=1単位5分音という音程。


 因みに5分音律はアロイス・ハーバは作品こそ残してはおりませんが(※残しております。私の知識不足でした)自著にて述べられております。その五分音律に用いている微分音記号というのはブゾーニの三分音に倣った物と同様の、「全音音程の等分律」という風に解釈していて、次の様に論述されていたりします。

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 左から2音目は1単位五分音ですが、左から3・4番目の音の記号は嬰変が振られているものの、これらはどちらも嬰ハ・変ニ音ではなく2単位五分音・3単位五分音であるという所を注意しなくてはなりません。4単位五分音は明らかに変種の臨時記号ではないので云うに及ばず。


 扨て、「全音音程」というのは既知の半音階の体系の中に「2種類」存在します。つまり全音音階=ホールトーン・スケールが記譜上にて2種類にて要約される様に、幹音主体と嬰変何れかの主体とした音列の組合せが生じる訳です。

 つまり、ハーバの例示するそれは幹音のハとニ音の間の全音音程しか例示していないので、変イ音と変ロの全音や嬰ヘ音と嬰ト音の全音音程という様な場合の臨時記号はどうするのか!? という疑問が生ずるかと思います。

 奇しくもブゾーニの場合は2種類の全音音階組織から2種類の3分音律を例示する事で、それら二つの三分音律をひっくるめると実際には6分音を総合的に得るという仕組みである事を知ると思いますが、ハーバの五分音は幹音の全音の例示だけなので読み手が拡大解釈する必要性が出て来ます。その際、記譜の慣例と史実に沿う必要性が生ずるのです。ジャズ/ポピュラー音楽界隈ではこうした場面に遭遇すると史実や慣例を顧みずに己のオリジナルな解釈を嵌当するケースが圧倒的に多いの難点でもあります。

 あらためてブゾーニの三分音の譜例もこの機会に譜例を用意しておきますが、それが次の通りです。2つの全音音階のシステムを用意し、夫々の全音音階システムの各音を3分割して語っているのがお判りになるかと思います。この三分音システムを5線譜を用いず6線譜を使って(この6線譜の見掛け上の幹音表記に依る3度音程が全音)表したりする事もありますが、元々は今回挙げる譜例で述べられている物であります。


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 ハーバの五分音律を嬰種・変種の音に充てる場合は、ナチュラル・シャープやナチュラル・フラットの様に親切臨時記号として見られる本位記号の後に嬰変の臨時記号を併記する方法や、アルカンのトリプル・シャープ(※これも亦シャープの後にダブル・シャープを併記=重々嬰ヘ音)とやらを想起しながら充てる必要があるかと思います。そうする事で、シャープやフラットの後に、先の五分音律用の音を充てれば、ダブル・フラットのみが通常のそれと同等になる位の注意をするだけで場を治める事が可能となるのです(♯記号が「♯♯」と並んだ所でそれは通常のダブル・シャープとは異なる)。実際の用例を私は確認した訳ではありませんが、凡ゆる側面に考慮すると、そうした理解に及ぶであろうという事を述べている訳です。

 余談ですが私がTwitterにてお付き合いさせていただいているshoさん(@sssss_clavさん)という方がおられますが、アルカンをはじめ多くの音楽家の研究をTwitterにてレコメンドされており、そうした深い洞察と欲求に私自身とても共感する所があるもので、特に彼がアルカンをレコメンドしている事はタイムラインを検索しても容易に見付ける事が出来ると思いますので、興味のある方ば是非shoさんの研究されるツイートをお読みになられる事をお勧めしたいと思います。彼の様な志のある人は微力乍ら応援したいと思うのです。


 茲でTV版「サザエさんオープニング」が440Hzよりも40セント低く、それを1単位五分音と見做すという私の視点を更に掘り下げますが、五分音というのは四分音にも近しいのだからそんな所に拘泥する必要はないのでは!? と思われるかもしれませんが、実は1単位五分音というのは純正音程の累積で非常に簡単に得られる物なのです。

 それが最も参考になるのは西尾洋著『応用楽典 楽譜の向こう側』(音楽之友社刊)が参考になる事でしょう。今回はそれに倣う形でイ音を中心として、それを220Hzと見立てて純正音程を探っての1単位五分音を得るという所を述べてみましょう。西尾洋氏の用例ではそれえを五分音とは述べられておりませんのでご容赦を。


 次の譜例は西尾洋氏に倣って作った物ですが、譜例左はイ音(=a音)から上方に純正音程である長三度音程をそれぞれ累積して、次は完全五度(これも純正音程)するという手順です。全てが純正音程であるという事は、音程比は非常に単純な整数比となる訳です。

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 つまりはa - cis - eis - his - hisという風に累積された時、そのhis音をオクターヴ下に追いやる。このhis音の周波数は257.8125Hzだという事を表しているのですが、記譜上に於けるhis音とはc音と異名同音ではあります。そのhis音が今度はどう変わるのか!? という事が今度は右の譜例で判ります。

 開始する音は先のイ音であり同じです。今度は「下方」に純正音程の長三度を作ります。その後それをオクターヴ上に追いやり、その音から純正音程の完全四度を下方に形成します。音名で表せばa - f - f - c というプロセスを踏んだ事になります。


 扨て、そこから得たc音を、譜例左で得たhis音との周波数を比較してみましょう。「257.8175Hz:264Hz」という事で、異名同音として扱えようとも、先の手順を踏んで生まれた「his音とc音」とでは異なる音高となっている訳です。その差は「41.05セント」。これが1単位五分音にほぼ近しい音という事であります。余談ではありますが、こうした整数の周波数で例示する際の通例としては、いくつかの整数を列挙してそれらの最小公倍数を使った方が判りやすくなる物であり、そうした側面に配慮すれば「2×3×5=30」または「3×4×5=60」という最小公倍数を使えば更に判りやすくはなるのですが、実際の記譜上の周波数と合致するのが難しくなり実音と記譜のどちらかが仮想的な思弁的理解にならざるを得なくなる為、今回は最小公倍数を使うのを回避している点も併せて御容赦願いたい所です。


 西尾洋氏の著書では微分音程を生む事にも間接的なヒントにはなっておりますが、そこから見えるのは、半音階的動作が必要なシーンに於て純正音程ばかりに依拠した演奏をしてしまうとピッチの狂いをすぐに生じて了う事の危懼をも暗に示しているのです。無論、これをリアルタイムに修正し乍ら演奏しているのが通常の西洋音楽で能く見受けられる演奏の実際なのです。

 ですから、それでいて平均律は純正ではないから駄目だ! だとか断罪している様な人というのは概ね純正律や中全律などが産み出す平均律とは異なる音高の段差や歪つなそれを実際には殆ど聞き分けておらず、思弁で捉えている様な人が多かったりするのです。多くの音律を使い分けて弾けてこそ、なのでありますが、そんな所に無知蒙昧な人は頓着してはいないでしょう。そのズレも「異名同音」という言葉を見た時、音のズレをも字義から矯正されて了う様な能力でしかなければ音楽を聴く能力すら乏しいのが現実だと云わざるを得ない事でしょう。


 こうした純正音程から得た1単位五分音にほぼ近しい音の「ズレ」の現実をあらためてお判りいただけたでしょうか。TV版「サザエさんオープニング」が440Hzより40セント低い事を思えば、通常のピッチより40セント低い「ニ長調」として私は耳にしていたという事であり、CDは通常のピッチより23セント低いニ長調として聴いていたのであります。


 すると更に疑問が湧くのですが、TV版「サザエさんオープニング」のそれは曲の終盤にて、少々不可思議な「転調」が起こるのは恐らくは大半の方が違和感を感じ乍らも、その違和感と自然の間、みたいな物を感じつつ大目に見て捉えている事かと思うのですが、サビの2ndヴァースの「今日も良い天気ィ〜」の後のブリッジ部以後の事です。

 このブリッジ部→コーダ部は440Hzでの「変ニ長調」です。しかし、違和感も少々異なる違和感。それも通常半音下の調性に移調・または転調した感じとも少々異なる様な雰囲気を感じていらっしゃる人は決して少なくないでしょう。

 私が本記事タイトルにて「転調」としているのは、そのブリッジ→コーダでのそれに、それまでのフレーズの引用が無い新たな動機であるが故に、単なる調性が推移しただけの移調ではないという理解の下で「転調」と呼んでいる訳です。どう捉えてもこれは厳密には移調ではなく「転調」というのが正しい理解であるという事も併せて述べておきましょう。


 すると、TV版の方のブリッジ・コーダ部のそれが正しいピッチの調性だとすると、基の調性は「変ニ長調」だったのか!? と考えてしまうと矛盾が生じます。そうです。2種類あるオープニングのそれらはいずれも440Hzよりも低いピッチなのですから基が変ニ長調だったと仮定すると、それが更にピッチが下がっていたでしょうから本来の調は「ニ長調」であるのが正確な筈なのです。

 つまりブリッジ・コーダ部はTVアレンジ用にどうしても付与したかったアレンジである事は明白なのですが、当時はテープの切り貼りでしょうから、半音でキッカリつかめない基の調性に対して近く感じる方を選択したのでしょう。

 そうはいっても「かなり低いニ長調」と「正しい変ニ長調」の間では60セントの差がある訳ですから、調性としては「かなり低いニ長調」は正しいニ長調の方と40セント差なのですからこちらの方が近い訳ですね。それでも「変ニ長調」を選んで了ったのは、以前にも述べましたが和音進行の「下方」五度進行に現れる安定的欲求のそれが下方に表れるのは、音波の総量、即ち空気の重さが関与しているからであり、その重たい方に安定感が備わる訳ですね。ですからアレンジャーは変ニ長調側の世界を欲求として選択せざるを得なかったのであろうかと思います。


 その60セントの差が、現今の我々の耳に毎週届けられて、「違和」を覚え乍らもそれを許容している訳です。幸いなのは半音よりも狭い事。故になんとなく腑に落ちない様な「転調」感なのだけれども、比類無き半音というワイドな半音でも無い為渋々許容し得る物なのであります。


 そうするとTV版の40セント低いニ長調とやらは、後続の転調先の変ニ長調こそが正しい調性となるとどの様に記譜すべきか!? という所に照準を当てて考えてみますが、一般的な理解では先行する調性はニ長調でも良いのですが、1単位5分音低いニ長調を前提として考えるなら、次の様な異端な調号を與えても決して誹りを受ける事はないでしょう(笑)。

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 次の譜例のなにやら奇異な調号には微分音的変化の意味を持たせた上での物です。ヘプタトニック(=7音列)が総じて40セント低い状況というのは幹音全てが40セント低い派生音として想起する訳です。すると嬰種か変種どちらかの記号が7つある調号を選択する必要がある訳ですが、微分音的派生音が総じて「ニ長調」に移調している状況を作るとすると、先の調号は少なくとも嬰種調号の方に倣う必要があり、更にはヘ音とハ音に嬰記号(=♯)が附与される様に、それこそ先述のナチュラル・フラットやナチュラル・シャープもしくはトリプル・シャープ記号表記に準えた物として調号に充ててしまえば、少なくともハーバの五分音にも準拠した形も汲む事が出来、とても奇異な調号として与える事は可能ではあります。すなわちこれこそが通常のニ長調より40セント低い状況を表す訳ですね。

 無論サザエさんはダイアトニック・コードばかりでなくトニックが属七化するⅣ度のⅤやら、1番と2番の間のブリッジ部にもノン・ダイアトニック・コードが出て来ます(F#△→Bm→E△→A7 ※Bm以外はF#△=Ⅵ度のⅤ、E△=Ⅴ度のⅤ)。こうした時には単に臨時記号を附与するのではなく嬰・変変化記号+微分音記号を臨時記号として使えば良いという風に明示しておけば伝わる事でもあるでしょう(笑)。とはいえ態々小難しい事をしなくとも、先行ニ長調は40セント低いとするだけでも実際は充分かもしれませんが、より注意を惹くのは此方の表記でありましょう(笑)。


 ですから、この違和こそが注意を惹きつつ、尚且つ半音ほど転調している筈なのにそれほどの違和感も大きくなく許容し得るこの状況も亦「注意を惹き付ける」物として偶然の産物として成立しているのであるのは明白です。


 微分音関連の話題を続けていたものですから、今回はアンサンブルの僅かなピッチの変化(微小音程)でのそれを、より一層注視する為にこの様に態々小難しく論ったのであります。とはいえ音楽に興味を抱く方であるならより一層昂奮出来る様に配慮しております。

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