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普遍和音の変化三和音──ジャズ/ブルースの6度 [楽理]

 過去にも諸井三郎の変化三和音を掲載した事がありましたが、再掲する6番の「短増三和音」など、いわば[augmented 5th minor chord] である為、短三度+増五度の和音なのであります。処がヴィンセント・パーシケッティとなるとその和音を和音体系としては組み入れずに自著『20世紀の和声法』では分類されていたりする訳です(後に詳述)。


 和音というのは、たった2音に依る音でも単音ではないので和音として分類されます。単音が潤沢な倍音を持っていてもそれは厳密には和音ではありませんが、倍音が著しくそれも非整数次ではなく整数次が共鳴的に鳴らされる場合は「和音」として感じ取られるシーンもあるでしょうが、単音には違いありません。

 和音というのは、先の様な2音の場合でも、某かの三和音またはそれを超える音で構成されている和音の抜萃という風に類推されている物でありまして、仮にヘ音とニ音の長六度が鳴ったとしても、そこには「完全音程を伴って転回位置から基本形を類推される和音の一部」という風にして聴かれる訳です。ですからヘ音とニ音の間には完全音程など無い訳ですから、へ音を基に類推される完全音程=ハ音 or 変ロ音と、ニ音から類推されるイ音 or ト音からの抜萃という風に類推される物なのです。

 ですからヘ音とニ音の2音による和音は「B♭△ or Dm」を先に類推するのであり、ハ音とト音を「和音構成音であるべし」と選択した時にはトライアドの形は類推できず(ハ・ニ・ヘ音およびニ・ヘ・ト音)という事になり、この場合は先の変化三和音を適用するのではなく、四和音からの抜萃の音脈が近いという近親性を持っている事になる訳です。

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 というのも、西洋音楽での和音分類にも減三和音、増三和音はありますが、これらは変化和音であり、普遍和音として分類される「長三和音・短三和音」こそが正当な和音であり、その他の和音種は普遍和音からの変化形に過ぎないというスタンスを採るので、変化三和音をコードサフィックスとして体系化に組み込むよりも、このようにしてシンプルに分類している事が本来は正当な音楽教育課程に於ける必要な理解なのです。


 だからといってバークリーに倣ったコード体系が本当の意味でこれ以上の整備をする必要がないのか!?といえばそこには未整備な部分があると思います。四度和音などは最たる物です。四度和音とて完全四度等音程や不等四度に依る堆積などありますが、

 和声体系として四度和音を取り上げているのはシェーンベルクやヴィシネグラツキーなどを例に挙げる事ができるでしょうが、西洋音楽界の人がジャズ/ポピュラー界隈のコード表記体系を整備する事など畑違いである事に疑いは無いものの、ジャズ/ポピュラー界隈は今一度、西洋音楽界の先蹤から学び取り乍ら新たな整備が必要なのではないかと思う事頻りです。


微かな音の変化

 私のブログでは幾度となく触れておりますが、マイケル・ブレッカーとて本人は明言していない物の、生前は中立音程をふんだんに忍ばせたインプロヴィゼーションを随所で聴かせており、採譜者の殆どがそうした実演を12等分平均律の耳で均して採ってしまっている所にも問題がある訳ですが、ジャズの重畳しい豊かな和声感が、ホーン隊の大所帯ではなく鍵盤奏者の手を借りる事が、ジャズの閉塞的状況をさらに深刻な物にしているのだと信じてやみません。鍵盤奏者側の新たなる音世界への活用と、既存の体系に拘らない柔軟な対応を持つ理解力と耳。これが現今のジャズに求められるべき所ではないかと信じて已みません。


 扨て、ジャズの和音の響きはなにゆえそれほどまで重畳しく不協和を目指すのか!?という事をあらためて語りますが、先述にもある通り、和音を奏した時の根音と第5音というのは特に顕著なのでありまして、何が顕著かと云えば、響きの予見があまりに「卑近」である訳です。その響きはまるで、

「俺とお前の仲じゃないか。水臭い」

と喩える事ができる程に卑近なのであります。

 ですからジャズは根音と第5音の持つ卑近な響きの小っ恥ずかしさを回避しようと、それらの音に二度の音を「衝突」させる訳です。その衝突が暈かしとなり「暈滃」となる訳ですが、二度音程がまとわり付く事になるので響きは「生硬」な物となります。いわゆる「硬い」と呼ばれる響きですね。人によって(=和声的習熟の甘い)はその生硬な響きを「汚い」だとか「濁り」とかと形容する事がありますが、ジャズの生硬な響きというのは茲に本質がある訳です。大局的に和音を俯瞰してみれば、完全音程に坐す音=根音・第5音に対して2度音程の音を附与している訳です。


 そうすると、先ず最初に五度音に附与されるのは六度音です。四度ではないのです。然し乍らこの六度音は厳密に云えば十三度音なのです。和声的に、そこに七度音の存在がなく六度音が附与されている状況であってもそれはジャズのシーンの中には、七度があっての十三度という解釈になる事も多くあります。

 例えば次のデモを聴いていただければお判りかと思いますが、ギターのリフは6th音を強調し乍ら和声的には七度を示唆する音は入って来ない状態でデモは継続されます。併せて後掲の譜例を参照の上で話題を進めますが、コードが3小節目からD△に移って4小節目に入りベース・パートが半音階にて〈fis - g - gis - a〉とフレージングするまでは、このキーAメジャーのブルースの七度が「gisではなくgである必要性」という物は本来ならありません。

 然し乍ら、先行のトニックであるA△でのギター・リフをこのように奏すれば、この時の七度音はAメジャーの音階固有音であるgisではなく、半音下方にオルタレーションされるブルー7度つまり「g音」を暗々裡に求められる事が殆どのケースである事でしょう。このリフでのこうした曲の形式でgis音を弾いた日には、背後からシンバルがスライサーとして喉元に飛んで来る位バンド内からも罵倒され、後世まで悪罵の声を挙げられる事でありましょう(笑)。

 因みにD△のコード上にてベースが「g音」を奏する時、モードが初めてAミクソリディアン系統である事を確定する訳ですが、その後のgisは音階固有音の導音ではなくて「経過音」である解釈となる事は同時に理解して欲しい所です。D△上に於けるc音という7th音を意識する事も重要ですが、それと並行してモードの第7音=g音への意識をD△上ではアヴォイドであってもそれを極点に輝く星の標榜として見つめる事が重要なのであります。


ブルースが暗々裡に示すもの

 こうした例から判る様にブルース/ジャズは、暗々裡に7度音に依る響きの「硬さ」を求めているのでありまして、キー=Aのブルースというモードでのアンサンブルに於てそこにモードの第7音の存在がなくとも、アヴェイラブル・ノートの為の示唆として「モード」を奏者が想起可能な様に、今回の例ではAミクソリディアンを中心として挙げているのであります。そして、そのAミクソリディアンというモードをもオルタレーション可能とする近親的モードを想起して「ブルース」たる音の粉飾が賑やかになるのであります。

 今回のデモ曲が示すコード表記はA△から始まり、ギター・リフが6th音を強調しているからといってA6を示す必要はないですし(このシーンでコード表記をA6と表記しようがA7と表記しても構いませんし、A7(13)と表記してもそれは可能である策の一つであって、和音表記に対して一義的な解釈など今回の例では存在しない)、そうした状況なら調号も嬰記号×3のイ長調を示すのであるならば7度音は本来のgisであって然るべきではないのか!?というのは、体系に溺れただけの正当な「お坊っちゃま&お嬢様流儀」を持ち込んで頭が固くなっている状況にしかすぎず、このようなデモのシーンではお行儀悪く振舞っても誹りを受けないブルースの仕来りなので、7度はgis音ではなくg音としてオルタレーションさせて存分にAをフィナリスとする響きで以て遊んで欲しいシーンな訳です。


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 9小節目以降は赤色がリードとして引っ張る旋律であり、その線に対してセクショナル・ハーモニーで埋めているという状況であります。コード表記が示している通り、想起する和音は、そのハーモニック・リズムに相当する位置にてコード表記を示しているのですが、セクショナル・ハーモニーというのは旋律に対して漸次ハーモニーを形成している為、一見するとすべての音が和音状態である為、コード表記が示す和音構成音とは全く異なる和音外音が経過的に連結される様に見えるかと思います。

 セクショナル・ハーモニーの場合、先行する和音が後続への和音へと「コード表記が移る間」というのは、その先行する和音のアヴェイラブル・スケールとなるモードに依って経過音を準える事が肝要となります。Cメジャーに於てトニックであるC△をCリディアンで嘯いた時のセクショナル・ハーモニー形成をするという前提で線を運ぶには、特性音であるfis音を経過的に忍び込ませる事でモードを維持する、という手法が採られます。

 また、複雑なセクショナル・ハーモニーでは、コード・チェンジの経過内にて、多義的なモード・チェンジを忍ばせて、それこそ対位法の変応が起こるかの様にしてコード進行の経過中に特性音を用いたり、用いなかったり、或いはモードに準えるべき他の音が変位したりする事が生じたりする事もあります。先の例に準ずるならば、CメジャーをCリディアンで嘯いている過程に於てfis音を使ったと思えば経過中の他の声部がfisを使おうとする所でfに変位したり(Cリディアン・モードであるにも拘らず)という、そうしたモードから外れたカウンター・ラインを得る事もあります。

 とはいえ、セクショナル・ハーモニーというのは属十三・副十三の和音を使っている、若しくは四和音以上の五和音・六和音の並進行と同様にまで発展する事ができる訳で、基本的には並進行にて形成される訳であります。西洋音楽に於ける対斜、増二度、増一度、重増一度の取扱いというのは臆する事なく用いられる物です(概ねオルタード・テンションを伴わせた時に遭遇する事になる)。

 西洋音楽の形式で構築した場合、ジャズに耳慣れた人からすれば矢張りアカデミックで予見の楽な感じになりやすい物ですが、経過音が経過和音として成立している状況な為、コード表記までを変える程でもない局所的なハーモニーという風に柔軟に捉える事も重要です。

 もしも曲の物理的なスピードが半分になったというのならセクショナル・ハーモニーで起こる経過的なハーモニーは、物理的な音価が長くなる事で、別種の和音が弱進行として聴かれる様な事が往々にして起こる事になる訳でもあります。

 
 8小節目最後の、後続小節の移勢(シンコペーション)されたハーモニーである「F9」は、私が想起しているこのコードのハーモニーをきちんと準えて、潤沢な長い音価で以て奏されている状況でありますが、10小節目の「B♭7」が登場する迄に存在する幾つかの和音というのは、F9からの機能和声的な進行とは脈絡が稀薄な弱進行にて進行プロセスが含まれているという事が判るかと思います。

 これは、セクショナル・ハーモニーを形成する上で、コード表記を与えるべく音価と弱進行的価値を持った稍強力なハーモニーであるが故に、これらの様にF9とB♭7の間に「Cm7 -> D♭△7 -> C7 (on E)」が経過的に忍び込んでいるという証明でもあるのです。


不完全和音

 この「Cm7」というコード表記に於て実際に奏してみると、Cm13の9度音オミットとなる不完全和音(※不完全和音とは三度堆積に依る和音にて基底和音となる普遍和音を除く一部の三度が省略されている状況の和音を指す。

 Cadd9というのも七度音の無い不完全和音として西洋音楽では括られる事になり、Cm7(11)というのも九度音が省略された不完全和音として括られる事になる)であるので、臆面もなくa音やf音が実際には附与されている形になる訳ですが、この線を生み出しているリードとなる線が偶々13th音方向を強く打ち出すが故のハーモニー形成なのであります。つまり、茲での13th音というのは、根音から見たときにやや悲し気に見えるリラティヴな状況と同等であり、6th音との取扱いに酷似する訳ですが、七度音が附与されている為それは6thではなく13thである訳です。


調性の2つの泊まり木

 扨て、根音のリラティヴに相当する音の存在。これを和音としてではなく音階で見た場合、判り易いのは平行調同士の関係でありましょう。長音階のリラティヴに相当する第6音は平行短調の主音でもあります。

 プチシルマのCMソングというのは長調であるのにリラティヴの下中音にすぐに泊まり木を求めるかの様に「着地」してしまいます。まるで年寄りが、腰を上げたかと思えばすぐに座り出してしまうかの様にすら思える程です。この、平行短調の主音に足を止めたそれを決して「平行短調への転調」とは云う事はできません。

 なぜなら転調というのはカデンツの各機能の和音を経由して「結句(解決)」をして一連の動作を終えて転調の仕来りを俟つ物であり、これらを経由しなければ転調は単に暗喩めいた部分転調・中間転調にすぎず不完全なままであるため、平行調の転調というのは単に、イオニアとエオリアの様に、長音階の中に二つのフィナリスを押し進めた物が「長調・短調」という世界観を発展させたのであります。

 一つの旋法に二つのフィナリスがあるというのは日本旋法では特に重要な物であり、主音と同等の中心音が複数ある、という点を踏まえる事で、単にリラティヴに歩を止めた様な状況を「転調」と呼ぶ訳にはいかないのです。とはいえ、平行調に歩を止めるだけの状況に対して巧い語句嵌当が存在する訳でもないのです。併しこうした側面は、「フィナリス」という中心音の存在を把握する事で平行調の転調などと易々と口にしなくなる物でもあるのです。フィナリスが複数生ずる旋法的な世界観というのはオルフ・シュールベルクの著書など大変参考になる事でありましょう。

 余談ですが、10小節目の移勢部(9小節の終り)の譜例最上段は3連符であり、他のパートはシャッフル表記における8分連桁なので、実際にはこれらのシンコペーションは物理的に同じ位置にあるのですが、簡便的にシャッフル表記の楽譜流儀に甘んじてしまうと、こうして移勢がズレて表記されてしまうのは吾乍ら忸怩たる想いを抱いて居ります。

 Finaleでは拍図表を用いて数値を細かく編集して見かけ上の位置を細かく編集する事ができるのですが、それを私が敢えてしなかったのは、シャッフル(スウィング)表記の慣例である「2つの8分音符による連桁の連結の実際は4分3連と8分3連とのスウィングである」というあの慣例で記される楽譜というのは市販の物でもこの様な「ズレ」を生じて表記されている物ばかりであります。私の詰めが甘いのではなく、こうした慣例に歯がゆさを感じている事を今回こうした記事を機会に語るのも良いだろうと思い、ついつい話題を脱線させてしまった訳です。

 これを機会にYouTubeにもアップしていたハイハットの音に依る5連符や7連符のスウィングや後打音の様にも聴かせるそれらの「揺れ具合」というのをあらためて確認してみて下さい。


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