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Carousel / Lifesignsを聴いて [ベース]

 ライフサインズ公式コメントに依るとカルーセルの冒頭のソロはギターではなくニック・ベッグスに依るチャップマン・スティックでのソロだそうでしてコレには結構度肝を抜かれたモノでした。ソロ終盤の三全音でハモらせるのはハーモナイザー的なピッチ・エフェクトではないかと思うんですが、トニー・レヴィンのクリムゾンでのエレファント・トークの様に、スティックの10弦を半音下げていたり若しくは1弦も半音下げていたりしてセーハの高速レガートに依るモノなのだろうかとも疑ってはおりますが、おそらくピッチ・エフェクトに依るモノだろーなと言い聞かせております(笑)。


 チャップマン・スティックという楽器はネックの両端ほどそれぞれ音が高くなっていくので、ネックの中心にある弦というのは低い音なのであります。グランド・スティックという12弦のタイプではない標準のスティックは10弦あるのですが、これは5本ずつのグループとなっていて1~5弦はメロディ・グループ、6~10弦はベース・グループとなっていて、夫々のグループは別個にピックアップが音を拾って別々の出力が可能となっております。但しアウトプット・ジャックは1つなのでステレオ・プラグから二本のモノラル・ケーブルに分岐するシールドを使うのですが、ステレオ・プラグを完全に挿入しないで甘く差し込むと1本のシールド線へまとめて出力させる事もできたりします(笑)。


 でまあ、ベース・グループの調弦は、6弦が一番太く、10弦に行く程細くなるという弦の配列でありまして、ベースの様に完全四度ずつ上がるのではなく完全五度ずつ上がるのも特徴です。

 視覚的なフィンガリングの配列だと物理的な音高を無視すれば音は同一なのですが、音高が「倒置」というひっくり返ったモノになるというのも面白い所でしょうか。それに加えて、スティックというのは異弦同音が多く出現する楽器でもあるため、運指の多様性が増すというのも非常に大きな特徴であります。


 何と言ってもスティックの最大の特徴は、ユルユルのテンションという、非常に細い弦を使って弦のテンションがとても緩い事を前提としたセッティングであり(一番細い1弦のゲージは.007!で、プレーン弦ではなく巻弦で一番細いゲージでも.013という珍しいゲージを採用)、フレットも円柱上の太くて山の高い物が埋め込まれており、これらの要因によって独特なクラビネットやシンセ・ベースの様なサウンドが得られます。


 折角スティックを詳細に語るのでこの際語っておきますが、スティックというのは次の例の様なポジションを8弦→6弦方向&低ポジション→高ポジションと運指をした場合、通常の四度チューニングされているベースの指板ならばマイナー・ペンタトニックの音並びを示している事になりますが、実際はそうではなくなります。
01Stick_Touch Board.jpg


 次の例を見ていただくとお判りになる様に、実際には音の高さが入れ替わってしまう、倒置といえる運指になるので先の様な運指でマイナー・ペンタトニックを弾いても譜例の様に鳴る事になります。
02Stick_Penta.jpg


 私の場合スティックは全ての弦を半音下げてチューニングしております。それは、最も低い音が出る弦の「開放弦」はC音ではあるものの、スティックの「開放弦」というのは確かにきちんと正確にナットとフレットも刻まれておりますが、タッピングという弾き方でスティックを弾く場合、開放弦をタッピングする事は事実上不可能です(笑)。レギュラー・チューニングに於いて最低音は確かにC音ではあるもののタッピングで出せる最低音というのはそれより実質半音高くなる為、私は半音を落とす事で「本当の開放弦」というものを、ベースなどのLo-Bチューニングのそれと整合性を保つ為にチューニングを落としているのですが、今回の譜例では標準チューニングにしております。

 ニック・ベッグスのスティックと思しき音、おそらく「At The End of The World」のLo-C音はタッピングで出している音の為、レギュラー・チューニングより落としているのではないかと推測しております。但しニック・ベッグスのスティックと思しき、と表現しているのは、実際に確認が取れていない事に加え、通常のスティックよりも低音が豊かな低音を鳴らしているからなのです。この豊かな低音という事をもう少し深く語って行きます。


 スティックというのは先のテンションの非常に緩い調弦と特殊なフレット形状から独特の音質が得られるのですが、その音は基音が相対的に小さく鳴る為、非常に低域のクリアな、ややもすると低次の倍音がスポイルされた様な音が出るのですが、これは通常のタッピングで演奏している時の「低ポジション」で弾く時に往々にそうした音キャラクターが得られるものでして、高いポジションで、特に12フレット前後の辺りだと独特なスティックの音キャラクターは少々失われ、ごく普通の低音が豊かな音になりがちな物になります。それは何故なのか!?


 タッピングを愚直に行った場合、弦振動というのはその際押弦した場所からブリッジ方面だけが弦振動を起こすのではなくナット側も弦振動を起こします。通常は押弦した際にさらにナット側にある指などを使ってミュートをしていればこの「共振」は抑えられるのでありますが、フィンガリングを顕著に運指を行うとナット側のミュートを疎かにせざるを得ません。そこでスティックはそうした演奏差に依る音色変化を極力無くすためにナット付近に余分な共振をミュートしてくれるダンパーが付いているのですが、現在のモデルではそのミュートはマジック・テープみたいなモノでしたが、私が最初に入手した時の素材はそれよりも毛深くて柔らかい、ブルゾンに付いたファーを短く切り落とした様な素材でありました。しかしこうしたミュートを備えていても、7フレットよりも高いポジション、或いは12フレット付近辺りとなると共振の作用が色濃く出てしまって、独特のスティック感がスポイルされてくる様になります。

 今回図に示す様に、例えばスティックの5フレット辺りまでのロー・ポジションというのが「共振」という影響が少なく作用するスティック独特の音が得られやすい音域なのでありますが、図に用いているスティックの絵のフレットの幅というのは一定の幅であるためあまりうまく伝わらないかもしれませんが(笑)、タッピングというのも実は唯単に押弦すればイイってぇモンではなくて結構色々配慮し乍ら弾いているモンなんですよ(笑)。

03Stick_TouchBoard.jpg

 この独特な音のキャラクターを常に弾き手が要求する場合、共振を抑える必要があるため両手を駆使した多様なフィンガリングを捨てざるを得なくなり、シンプルな運指のための音選びになってくるのであります。しかし、この「共振」を抑えるにはもうひとつ方法があって、極力ソフトな押弦を心掛けるという手段もあります。

 最近ではクサビ型のフレットを持つスティックも出て来ましたが、元々スティックのフレットはとても柔らかい材質なので、すぐに摩耗します(笑)。エレファント・トークのような少々ワイドなグリッサンドをやると途端に摩耗が判ります(笑)。ですからエレファント・トークばっかりやってる人はあの辺のフレットはすぐに真っ平らになるのです(笑)。

 ただ、元々ベースをやっている人間が極力ソフトな押弦で弾くというのはとても難しいモノでして、私はどちらかというとサウンド・キャラクターを維持してフィンガリングはベースのままで、というトニー・レヴィン的な考えであるため、スティックの音はクラビネットの様にエグい音を維持した様なモノになるのですが、ニック・ベッグスのスティックの押弦がどういう物かは定かではないものの、クラビネットの様な音は忌避した低音潤沢系の音を追究している様に私は思います。エグさを極力回避した音作りに徹してスティックを弾いている様に思います。


 とまあ、こんな風にスティックの特徴とやらが少しでも伝わると助かります。とりあえずLifesignsの「Carousel」の冒頭のスティックというのは、多くはクラビネット系の音を活用する音の類とは全く相反する高音側でのプレイでありまして、先述した様にスティックの弦のテンションというのはとても緩いので、チョーキングに相当するベンディングは勿論、フレットが非常に大きいのでグリッサンドも容易だったりするので、ギターに置換しても非常にダイナミックな運指やらに聴こえたりするかもしれません。勿論ギターでも同様の演奏は可能ではありますが、器楽的な特徴をあらためて踏まえた上で理解するのも宜しいかな、と思います。運指やらが楽とはいえニック・ベッグスのプレイのそれは相当な技術が必要になってくるので、彼のプレイを軽んじているのではないのでその辺りも誤解なきようご理解ください。


 扨て、カルーセルの本題へと入りますが、ツイッターでも以前呟いていた様に私はこの曲には相当な賛辞を贈りたいと思うワケでして、よくもまあ入念に作られた中でこれほど巧い事味わい深く聴かせる事ができるモノだと非常に驚いているのが正直な所です。プログレのレジェンド達と容易く比較するのはどうかとも思いますが、曲想としては私はハットフィールド&ザ・ノースの「Mumps」を思わせるかのようなリフ使いをもイメージしますし、曲中のアコースティック・ピアノのブリッジには何故か私はヒンデミットを想起したりします。ハットフィールドの感じを随所に感じるのはリフのフレージングの組み立てやフルートの音が入って来たりする事でついついカンタベリー感覚を想起してしまうのでありまして、カンタベリー以前のそれこそハービー・マンやボビー・ハンフリー、ジョー・ファレルやらジャズ方面の影響も垣間見える当時の音楽シーンへの記憶というのがついつい蘇ってしまうモノでして愛着を感じてしまうワケですね。

 カルーセルに限らずライフサインズの要所要所のリフという動機の接続具合というのはとても入念に作り込まれていて聴き手には非常に掴みやすいモノで、いきなりシーン・チェンジをしてしまうかのような奇を衒うかのような作りにはなっていない為、これが非常に良い点でありまして、脈絡を丁寧に扱うので一体感が出て来るのであります。

 
 例えば、人間同士の会話など少々長くなってしまうと、それを全体に渡って聴いているという事は少なく、集中している部分とやり過ごしてしまっている部分は結構多いのではないかと思います。脈絡を巧く扱えない自分本位のバンドというモノはリフ作りもあてずっぽうで、どっかの楽器パートの偶然生じたオカズやら誰かの「動機」に凭れ掛かるしかなく、作り込もうとしても作り込めない愚かな姿を見掛けたりするモノですが、自分本位の連中というのは楽曲の食い付きどころも聴衆を理解しておらず自分達が単に弾いていて没頭している音の垂れ流しでしかないのでつまらなくなるモノなんですが、「動機」を巧く組み立てる人達というのはそこから筋道を立てて形成していくので、こうしたライフサインズのアレンジの妙味というのは是非とも参考にしなくてはならない部分で、カルーセルは本アルバムにおける集大成という感じが十分凝縮されております。


 細かな部分がヒンデミットの○○の曲に酷似しているというワケではなく唯単に雰囲気でして、私はヒンデミットをこよなく愛しているのは昔からブログをお読みいただいている方はお判りかと思いますが、特に理由もなく好きなスイッチが入ってしまうと遥か縁遠い脈絡すらリンクさせてしまおうとしてしまっている様なモノだとご理解いただけると助かります。ただ、私の場合は先のアコースティック・ピアノのブリッジなどを聴くとヒンデミットのオーボエとピアノのソナタ第一楽章やヒンデミットのルードゥス・トナリスの「III(3):Interludium primum:Moderato, Con energia」「XVI(16):Fuga Octava in D major:Con forza」などを聴いていただくと私の「ツボ」という物をお判りいただけるかもしれません(笑)。


 先述したカルーセルのアコースティック・ピアノに依るブリッジですが、譜例にすると次の様な小節構造になり、8/7、4/4、12/8拍子を繰り返すパターンとなるワケですが、私がこのブリッジで最も注目するのが、譜例の3小節目下段に記している様に、サステイン・ペダルの記号です。ここでペダルを踏む事で「掛留=suspended」が起こる事で、前の和音が残像の様に被さって来るワケですね。
04Carousel_PianoBridge.jpg

 私がライフサインズに関してブログを書いてから掛留(=suspended)やらペレアス和音やらを引き合いに出して声高に語っていたのは、こうした短い時間をも聴き逃す事なく音楽に没頭して欲しいが故の理由で語っていた事なのです。しかしそれは決して大袈裟な事ではなく、こういう事実を気付かずにやり過ごして聴いてしまう人というのは、言葉で置き換えるならば言われた事を一度で理解できない事と同じなのです。何度も聞いても判らないようであってはいけないのです。特に音楽の場合は言葉と違ってそうした部分が一般的には等閑にしてしまう傾向が強く、それが当然と思われている節があるので、そうした手前勝手な基準を押し付けて音楽を聴いてしまう様ではいけないという事をあらためて申しておきたいと思います。

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