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The New Breed/ドナルド・フェイゲン 「Sunken Condos」考察 [スティーリー・ダン]

 5曲目「The New Breed」は譜例の通り、冒頭のテーマはGM7とGM7augという、通常のメジャー7thとオーギュメンテッド・メジャー7thを移ろわせるように使って来るんですが、雰囲気としては何処かご機嫌な様子を演出し乍らも傍目から見るとどこか奇異な行動を見てしまうかのような感じにすら思えてしまうシーンが浮かぶ様な響きにすら思えます。
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 オーギュメンテッド・メジャー7thというのは古典的枠組のそれとは異なる短調の扱いに於いて、「短調のIII度」として出現するコードでもあります。だからと行って先のGM7augが表れて来たからといって、平行短調であるEmの側の世界観が色濃く演出されるというモノではなく、GM7というコードだけでは決して見る事のできない彩りがあるように曲想を捉える事が出来れば充分堪能できるモノです。個人的には今作の5つ星のひとつがこの曲です。なんとなく「Gaslighting Abbie」の雰囲気も感じます。04two_against_nature.jpg


 前述の様に、短調のIII度が垣間見えるという事は、メロディック・マイナーのモードも視野に入る音世界を認識可能な状況であるワケなので、そうした音世界に牽引力が働いているという事も感じ取って音を吟味していただくと、より一層音楽を堪能出来るのではないかと信じてやみません。

 オーギュメンテッド・メジャー7thは古くからジャズ・ロック界隈(※ジャズ界のサイドワインダーを筆頭に挙げる事のできるタイプで呼ばれる所のジャズ・ロック物ではなく、プログレ界隈での混沌とした世界の方のジャズ・ロックの意)で使われているコードですので、そういうボキャブラリーに慣れていらっしゃる方なら、この曲で用いられている和音の意図がお判りになるでしょうし、同時にそれが如何にシンプルで不可思議な雰囲気を漂わせたリフで曲を作り上げられているかという事を理解しつつ、そのシンプルな世界から拡大される(進行していく世界観)イマジネーションはかなり聴き手としても相当拡大される筈ですので、その辺りを吟味できれば面白くなるのではないかと思います。

 注意が必要なポイントとしては、次に進行したいがための自分自身の調性感覚をこの曲に無碍に押し付けてしまわない様に聴く事です。自分の行きたい方向に曲想を「矯正」してしまうと、その後現れる特異な響きに追従出来なくなるので、この曲に始まった事ではありませんがSD周辺の曲はそのような聴き方で音楽と向き合った方が理解が深まると思います。

 歌詞にある♪I'll get along somehow♪の「somehow」の部分ではG♭M7aug/A♭augとも呼ぶべき特異な和音が生じております。G♭aug/A♭augなら六声のソフト・マシーンの「M.C.」やトゥランガリラ交響曲第三楽章で現れるピアノに依る和音がホールトーン・スケールの総和音になりますが、それにさらに1つ追加されているワケですから、ヘプタトニック(=七音音階)の総和音であろうという事は容易に推察が可能でありまして、先の和音の構成音から得られる音階を探ってみようかと思います。

 それにしてもこの逡巡した様は、私にはどことなくアート・ベアーズの「Labyrinth」のド頭のダグマー・クラウゼの唄の部分を彷彿するかの様な色彩に満ちた音に聴こえてきます。
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 先の構成音を列挙すると「A♭、B♭、C、D、E、F、G♭」となりますので、これはCメジャー・ロクリアン・スケールとなります。つまりCメジャー・ロクリアン・スケールの第6音をスケール・トニックとするモードという事を意味する事になります。混合長旋法のひとつである長音階の第6・7音が半音下がった旋法と比較して、更に第5音まで半音下がるというのが特徴かもしれません。
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 余談ですがこのCメジャー・ロクリアン・スケールの第7音をスケール・トニックとするモードは、B♭リディアン・マイナーとも呼ばれるモノで、リディアン・クロマティック・コンセプトを繰り広げるジョージ・ラッセルがこうした旋法の可能性を提示していない所は少々片手落ちの様な気がしないでもありません。

 この音階の特徴は、長音階の第5・6・7音を半音下がった物としても捉える事が出来、同時に四度/五度の完全音程が現れるのがC音とF音とB♭音にしか無いという関係にあるのが最たる特徴です(※奇しくも完全四度等音程がこうして現われ、便宜的にはFsus4が登場してくるというのも、完全四度等音程を近似的な脈絡としてこうした本来なら縁遠いであろう音階に寄り添う術にするのは大きな手段といえるでしょう)。


 更にこの音階の特徴は、C音とは三全音の音程側であるF#音を「仮想的」に主音とする方へ目を向けるとF#ホールトーン・スケールの主音と第6音との間に導音として第7音を忍ばせているような音階だという事もお判りいただける化と思います。

 通常我々がよく使う所の「ヘプタトニック」という七音音階というのは、5つの全音と2つの半音にてオクターヴを分割した物を使う事が多いのですが、この音階も同様に同じ数なのに、此処まで他の純然たるヘプタトニックとは一線を画すかのような立ち居振る舞いは見事というしか無い存在とも言えるかもしれません。まあホールトーンを包含してしまっているワケですから当然と言えば当然かもしれません。一方メロディック・マイナーのモードだと全音の数はホールトーンの次に多い音階ではあるものの、「近似的」でありホールトーンを包含するのではありませんからね。以前に私が何度か語っていた、全音音階の一部の全音音程を半音に「砕く」音列というのがまさにコレなのであります。


 よくよくこの音階を一望すると、「ドレミファ」の音列と「ソ♭ラ♭シ♭」のそれらが、三全音離れた調域のバイトーナルを示唆しているかの様な音列(ハ長調と嬰へ長調亦は変ト長調)になるので、それこそペトルーシュカ和音へ変容を遂げる可能性すら持ち合わせている「バイトーナル」な視点で見つめる事の出来やすい和音である、という事が判るかと思います。然し、ここでの「ソ♭ラ♭シ♭」が必ずしも他の調域の「ドレミ」である必然性はなく、他の調域の「ファソラ」(=変ニ長調)や「ソラシ」(=ロ長調)である可能性も否定できなくはないので、三全音離れた同士の調域だけと判断してしまうのも早計ではありますが、最も「親しみのある」(本来ならポピュラーな世界ではなかなか遭遇しない用例ではありますが、その中にあってもまだ想起しやすいのがペトルーシュカ和音)のが三全音離れているという状況を見据えた場合だという事ですので、色んな状況を想起し得る事でもありますのでこのついでに覚えて理解していただければ幸いです。

 ペトルーシュカ和音の場合は三全音離れた2つのメジャー・トライアドの併存なワケですから今回の例とは全く異なる和音ですが、バイトーナルという複調の姿がこうして見える事で、それらの調域が三全音離れている事を示唆する事が容易なので、ペトルーシュカ和音への密接な関係にもあるという事を意味しているだけで今回の「The New Breed」とペトルーシュカ和音の間に直接的な関係はありませんので、その辺は誤解なきようご理解願いたい所です。


 というワケで先の七声の和音はCメジャー・ロクリアン・スケールの第6音をスケール・トニックとするモードの総和音という風に導く事が可能なのですが、一般的にはポピュラーな方面とは対極に位置する所の知識だったりするので混乱を極めてしまうかもしれませんがご容赦を。
 
 SD関連の楽曲を繙く場合、往々にして従来のコード表記の枠組みだけで考えてしまっていると表記に尻込みしてしまいそうな音を見付けては逡巡する事が多々あるモノです(笑)。そうした旧い体系に則ってしまっているとそちらに倣う事ばかりが是としてしまう所があって、本来拾わなければならない音をスポイルしてしまいかねない状況を生むのが顕著になりますが、それに耐え忍んでもなお考えに及ぶ「根拠」を得るためにポピュラーな音楽理論の先にある理論があるのです。ただ大概の人はここまでの枠組みを知る事は稀なのであり、根拠を得るための必要な理解に及ぶ事すらも難儀するモノです(笑)。ハイパーな音を選択する事も理解することも頭を痛めてナンボなのであります。


 私は、こうした増和音の遭遇には出来るだけ嗅覚(聴覚ですが)を鋭くしていたいと思います。それは、フェイゲンの今作「Sunken Condos」とThe Fusion Syndicateのアルバム考察の後に予定しているブログテーマにおいて、増和音の遭遇が如何にして重要なモノなのか!?という事を語る予定でありますので、増和音というのは音楽の彩りを多角的に拡大するような接続先であると思っていただければスムーズに理解できる事かもしれません。

 一般的には「不協和音」の増和音の扱いですが、「不協和音」という言葉は和音を表現する言葉以外に人間関係の不仲を意味するネガティヴ要素のある意味も存在するものですから、こと音楽に於いても皮相的な理解で不協和を忌避しようとしてしまう人が居たりするものですが、そういううわべだけの理解を避けて音と向き合って欲しいと思わんばかりです。不協和な音に耳が馴染んでくれないのはそれは当人の耳(正確には脳細胞)が未成熟だからに他ならないという事を念頭に置いてきちんと選別すべきです。音楽の嗜好具合に偏りのある人ほど本来聴き込まなくてはならない音をリジェクトしてしまっているモノなので。

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