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泣く子はいねぇがぁ!? [アルバム紹介]

 泣く子=マイナー・メジャー9thコードという風に今回は置き換えていただきたいのでありますが(笑)、何処かにマイナー・メジャー9thの体が隠れていないかなーと虱潰しに探ってみるのも面白そうだなと思いまして今回は某曲を題材にする事に。


 以前は、よせばいいのに大江千里の唾棄すべきジャズの時に引き合いに出したモノでしたが、大江千里のジャズのそれはデタラメなプレイであるものの、ジャズに対して皮相的な理解しか持っていない者は「音を外すのがジャズ」という風な理解でしかないのではないか!?という私の方の率直な疑問から、ジャズ界隈であっても「こーゆー音の外し方は結構レアなんだぜ」という傍証で、私はその「某曲」とやらでジョー・サンプル作曲でTake6フィーチャリングで唄う「U Turn」という曲の事をチラッと語った事があったモンです。
Spellbound_JoeSample.jpg

 勿論その時引き合いに出した理由は、大江千里の音が出鱈目なのは当然だけれども、ジョー・サンプルの曲にあるようなレア・ケースを出鱈目と思ってしまってはいけないという事で引き合いに出したワケでありますね。ところが先のジョー・サンプルの曲「U Turn」はパッと聴きでも結構惹き付けさせるAOR/R&B風でありますが、曲を聴き込めば聴き込むほど背景の不思議な和声と不思議なモードの浮遊感を体感するのであります。

 以前に語った様に「不思議な」コードというのは、背景にメジャー7th系のコード(=BM9)が在り乍ら、ベースのネイザン・イーストは忌憚なくBM9の所でA音という短七の音を弾いているのが特徴で、このベースが弾く短七を増六と理解しなくてはならないのか!?という、楽理面に於いても結構頭を悩ませる実例がソコにあるワケです。前回語っていたのはこーゆー事だったワケなんですが、「隠れたマイナー・メジャー9thコードを見付け出す」という折角のテーマなので、今回再び「U Turn」を引き合いに出す事となったワケです。


 結論から言えばジョー・サンプルの「U Turn」に用いられているド頭のコードは、その和音のみ複調(=バイトーナル)和音です。しかも、このバイトーナル和音は下声部にロ短調上声部に変ホ短調を視野に入れた物として理解する事で漸く繙く事ができるという、結構難解なモノです。音はスンナリ耳に入って来るにも拘らず。


 この曲のAパターンもイントロとほぼ同様なのですが、Aパターンという本テーマに入る前の前奏でのTake6メンバーの唄うオブリガートは非常に顕著なのですが、背景の、それこそBM9上でマイナー3rd音と等しいD音から唄い始めるのですから、ネイザン・イーストの経過的なA音といい、背景のBM9という構成音が「B、D#、F#、A#、C#」という成立から考えると、

 「なんでA音とD音弾けるの!?バカじゃねーの!?ピストルズでもこんな音弾かねーんじゃねーの!?」


 と、曲を知れば知る程不思議なプレイに頭悩ませる事になります。ところが聴こえて来る音はそれほどおかしくは聴こえないというのも妙な所です。こうした所をまずきちんと繙かなくてはならない、というワケですね。


 
 扨て、此処でいまひとつ疑問を抱かれるかと思います。私は先述での複調を語る際「ロ短調と変ホ短調」を視野に入れた和音と述べているので、BM9という和音がどうやってロ短調に当て嵌まるのか!?という疑問ですね。それは次の様な譜例にすると判りやすいかもしれません。
Uturn01.jpg


 
 この譜例の冒頭1小節目「のみ」が複調ですので、敢えて上声部と下声部の調号を別個に与えております。本当の和声解釈はこの譜例通り「E♭m7/Bm」という事となります。ところが多くのパターンに於いて下声部Bマイナー・トライアドが有する短三度音=D音を奏でるのは、先述の通り、Take6がオブリガートで唄うイントロ部以外は殆どのケースでD音がオミットされている為、和声的には「B、D#(=E♭)、F#(=G♭)、A#(=B♭)、C#(=D♭)」と聴こえるので、「あたかも」BM9として耳に届いてしまうのです。

 E♭m7/Bmというコードに対してD音を忌避せずに、それこそE♭音を押し込めてオミットしてやると、譜例の下の注釈を付けた別の譜例の様に「隠れた」BmM9というマイナー・メジャー9thコードを見付ける事ができるのです。


 私自身はこの「U Turn」という曲はとても好きですが、バイトーナル和音の聴かせ方としてはもっと巧い方法があるのではないかと思っています。和声的に余りに垂直的に聴かせ過ぎているので、バイトーナル和音の響きが全面に出し切れていない、というのが正直な感想です。但し、作者としては下声部にある「ロ短調」という世界観を堅持させている為、ネイザン・イーストはその「調域」を短七のA音をまぶす事に依って、あたかも「ロ長調」に聴こえてしまう様な音空間に対して一石を投じている様なフレージングになっているのです。

 「オイオイ、メジャー7th系のコードで何短七の音スラップで入れてんだよ!?」と聴いてしまうかもしれません(笑)。でも、それほどおかしくない音でもあるのです。この不思議さを追究すると、こうして複調の世界が見えて来る、というワケですね。


 でまあ、譜例を見ればお判りの通り、この4小節のパターンは和声的にはほぼB音のオルゲルプンクト(=ベース・ペダル)なワケですね。4小節目の3~4拍目はトニック感の中和の為に下属音にジョー・サンプルが「逃げ」の演出を見せますが、そこを常にトニックで堅持しない様ネイザン・イーストも3度ベースで「逃げ」乍ら追従しているという、進行感は希薄なモノにしていて、曲中でのこの「逃げ」の3~4拍はこのコードばかりで堅持しているワケでもありません(そのままBm7の箇所もあり)。


 本題の「隠れた」マイナー・メジャー9thというのを見出すには、イントロ部の僅かなTake6のオブリガートに依って唄われるD音が生じている時こそがバイトーナル和音としての真骨頂なのでありましょうが、パート別に見ても旋律的な工夫に若干乏しく垂直的な和声感に終始している為、アレンジとしては少々勿体無いと思う事しきりなのですが、こうした世界観をジョー・サンプルとて有しているという事が新たに理解できるだけでも興味深い発見かもしれません。

 余談ですが、このバイトーナルのアプローチ(短調と別の短調)というのは、当時のライヴ・アンダー・ザ・スカイでの、同アルバム収録曲にもある「Bones Jive」での自身のピアノ・ソロなどではふんだんに複調をぶつけて来ておりました。

 垂直的な和声から解脱するかの様に、それこそポリフォニー音楽を目指せ!と言っているワケでもありません(笑)。リフにひと工夫するだけで充分ってぇこってすよ(笑)。


 最後に、今回例に挙げたロ短調と変ホ短調という複調は、音程差は「減四度」であって決して見かけの長三度ではないという理解が必要だというコトを強調しておきます。このふたつの調域を使って夫々を「四度」でハモらせるコトが必要となった場合次の様になります。

BはE♭
C#はF
DはG♭
EはA♭
F#はB♭
GはC♭
AはD♭

となりますが、今度はこれらの調域を「3度」でハモるとすると

BはD♭
C#はE♭
DはF
EはG♭
F#はA♭
GはB♭
AはC♭

と一部を除いては見かけ長二度でハモってしまいますが、赤色で示した音程同士は三度の体が現われ、これらの「特性的」な音を使って和音を作ると、更に別の調性へ飛び越せる材料にも用いるコトができる脈略として使うことが可能なので、ソロ・プレイヤーは特にこうした複調の世界にあっても3つ目の調性を見出したりするコトも視野に入れるコトが可能なのです。今回の調域「みかけ長三度」の減四度というのは、実はこうした魅力があるんですね。その辺りも念頭に置いて吟味していただくと解説する側としてはとても有難いことです(笑)。

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